どうも、特命記者Mです。
「4年間、集中して働いて開業資金を貯める」
言葉にすると、とても明快な計画です。
私のダイエット計画も同じです。
「1年間、集中して摂生して20kg痩せる」
しかし、人生には、
予定表に書かれていない出来事が起こるものです。
モンドセレクションみたいなもんやろと思いながらも、
メニューにあると、つい気になってしまう
「から揚げグランプリ受賞」のから揚げ。
いつもは大行列で素通りしていたのに、
今日に限って二人しか並んでいない有名店のこってりラーメン。
おかわり無料の米。
この20年、幾多の予想外に見舞われ、
結果として30kgも太ってしまった私。
お二人の場合も、当初4年だった計画は、
1年の延長、そしてコロナ禍を経て、
約9年間の挑戦になりました。
私と違うのは、お二人が予想外に負けなかったこと。
前編では、高校時代からの友人である
佐藤さんと高崎さんが、
40歳前後でSuper Dream Projectに飛び込むまでをご紹介しました。
後編では、予定どおりに進まない日々の中で、
お二人が何を学び、どう夢を持ち続け、
約9年間の経験を『居酒屋ナキウサギ』へつなげたのかを伺います。

前編はこちら
4年で卒業するはずが、気づけば9年に
記者M:
当初は、4年で卒業する予定だったそうですね。
高崎さん:
はい。4年間で開業に必要な資金を貯めて、二人の店を始めるつもりでした。
ただ、私たちは二人とも休める時間をつくるために、アルバイトさんを比較的多く雇っていたんです。
佐藤さん:
着任した地域では、飲食店にもかなり行きましたね。
記者M:
つまり、貯めるはずのお金が、おいしい料理とお酒に……?
佐藤さん:
違います。
「開業のための勉強」です(笑)。
高崎さん:
もちろん、私たちの息抜きでもありました。
でも、ホテルのお客様に地域のお店をご案内するためには、自分たちで実際に行ってみなければ分かりません。
新しい地域に着任したら、まず観光地を巡って、飲食店へ行く。そのお店をお客様に紹介できるか、自分たちの目で確かめていました。
記者M:
趣味と実益が、これほど見事に一致することも珍しいですね。
佐藤さん:
そういう生活をしていたこともあって、当初の4年間では、もう少し資金に余裕がほしいと考えました。
そこで、まず1年延長することにしたんです。
高崎さん:
その後、「そろそろ卒業しよう」と話していたタイミングで、コロナが始まりました。
あの時に辞めていたら、飲食店を開業できる状況ではありませんでした。
佐藤さん:
しばらく状況を見ながら続けることになりましたが、期限を決めずにずるずる延ばすのはやめようと。
「50歳になる前には、必ず二人の店を開く」と決め直しました。
記者M:
予定が崩れても、夢そのものは崩さなかったんですね。
高崎さん:
毎晩、一緒に食事をしながら、今後のことを話していました。

いつ卒業するのか。
何が足りていないのか。
店を開くために、今何をしておくのか。
日頃から共有していたので、二人の目線が大きくずれることはなかったと思います。
当初の計画から遅れている。
だからといって、夢を諦めるのではなく、
そのたびに計画を立て直す。
4年が5年になり、コロナ禍を経て約9年になっても、
お二人が向かう先は変わりませんでした。
全国の飲食店が、二人の「生きた教科書」に
函館、浅草、弘前、新井・新潟、そして再び函館。
お二人は各地でホテルを運営しながら、
地域の飲食店を巡り続けました。
記者M:
約9年間で、どれくらいのお店に行かれたのでしょうか。
佐藤さん:
かなりの数になると思います。
良いお店だけでなく、私たちには合わないと感じたお店にも行きました。
なぜこの店は流行っているのか。
なぜ、この店にはもう一度来たいと思わなかったのか。
いろいろなお店をお客様の立場で見られたことが、勉強になりました。
高崎さん:
地域によって、お客様が求めるものもまったく違います。
都市部では受け入れられる店でも、地方では難しいことがある。反対に、その地域だからこそ支持されている店もあります。
地域性や人気店の共通点を実際に見られたことは、今の店づくりにもつながっています。
記者M:
現在の『ナキウサギ』では、日本酒にも力を入れていますよね。
高崎さん:
新潟に着任して、日本酒のおいしさや奥深さを知りました。
それまでも日本酒を飲むことはありましたが、酒蔵や銘柄の違いを意識するようになったのは、新潟での経験があったからです。
今の店で日本酒をそろえているのも、その影響ですね。
佐藤さん:
勤務地が変わるたびに、今まで知らなかった食やお酒に出会えました。
一つの地域にずっといたら得られなかった経験だと思います。

ホテルの仕事と、将来の居酒屋経営。
一見すると、別々の仕事に見えます。
しかし、お客様が何を求めているのかを考え、
地域を知り、良い店とそうでない店の違いを観察する。
お二人にとって、各地でのホテル運営そのものが、
飲食店を開くための実地研修になっていたのです。
さらに、ホテル一棟を預かる日々の中で身につけたのは、
食や接客に関する知識だけではありません。
設備の修繕、清掃、数字の管理、システムの導入。
その一つひとつが、
卒業後の店づくりにも生かされています。
小さな居酒屋に詰め込まれた「ホテルの知恵」
2024年3月末、
お二人はスーパーホテルを満了卒業。
同年5月頃から千歳市で本格的に物件を探し始め、
11月に『居酒屋ナキウサギ』をオープンしました。
記者M:
卒業から約8カ月。
かなりのスピード開業ですね。
佐藤さん:
最後の1年は、「卒業したら店を始める」と決めていましたから。
開業するなら千歳と決めていたので、条件の合う物件を見つけられたことは幸運でした。
記者M:
実際に店内を見渡すと、約9年間のホテル運営で得た知恵が、いろいろなところに使われているそうですね。
高崎さん:
少し設備が壊れても、すぐに業者さんへお願いするのではなく、まずは自分たちで直せないかを考えます。
ホテルでは、簡単な修繕や設備の確認もしていましたから。
佐藤さん:
洗剤や清掃方法の知識もあります。
照明や床材、壁紙の選び方や、狭い空間を広く見せる工夫も、ホテルで身につきました。
照明同士が近すぎると、地震の時にぶつかって割れるかもしれないとか。店をつくる時にも、ホテルでの経験がかなり役立ちましたね。
記者M:
飲食店の修業だけでは、なかなか身につかない視点かもしれません。
佐藤さん:
モバイルオーダーや売上管理のシステムも、迷わず導入しました。
ホテルでは数字やデータを見ることが当たり前でしたから、今も売上を確認しながら、営業日やメニューを判断しています。
記者M:
店名にも、ホテル経営で培った販売の視点が生かされているとか。
佐藤さん:
検索した時に、ほかのお店に埋もれない名前にしたいと考えました。
同じ名前のお店がたくさんあれば、検索結果でも見つけてもらいにくくなります。
一度聞いたら覚えてもらえて、北海道らしさも感じられる。
「ナキウサギ」という名前は、かなり考えましたね。
記者M:
店名を決めるところから、すでに経営が始まっているんですね。
メニューもまた、開業時に決めたものを
そのまま守り続けているわけではありません。
当初は、「北海道の居酒屋なら刺身が必要」と考え、
定番メニューとして提供していました。
しかし、実際のお客様の反応や仕入れの状況を見ながら、
現在は入荷した時に提供する形へと変更。
肉料理とお酒を楽しんでもらうという店の芯は残しながら、
地域のお客様に合わせて柔軟に変化させています。
約9年間、地域も規模も異なるホテルを運営してきたお二人。
そこで身につけたのは、
最初に立てた計画を頑なに守ることではありません。
お客様の反応や数字を見て、
必要であれば、すぐにやり方を変えること。
『居酒屋ナキウサギ』には、
ホテル運営で培った柔軟な経営感覚が詰まっていました。

夢より先に、冷蔵庫の所有権を決める
記者M:
前編から気になっていたことがあります。
高校時代からの友人同士が、一緒に暮らし、同じ職場で働き、約9年間ホテルを運営する。
そして卒業後も、一緒に店を続けています。
どうすれば、そんなに長く仕事のパートナーでいられるのでしょうか。
佐藤さん:
まず、お金のルールは、最初に決めておいた方がいいと思います。
私たちは夫婦ではないので、報酬もそれぞれに振り込まれます。
冷蔵庫や洗濯機など、大きなものを買う時も、どちらの所有物なのかを決めていました。
記者M:
夢の話より先に、冷蔵庫の所有権。
非常に現実的です。
佐藤さん:
でも、大事なんです(笑)。
ずっと一緒に続けられるとは限りません。
いつか別々の道を選ぶ可能性も含めて、最初に決めておけば、後からこじれにくくなります。
高崎さん:
喧嘩をした時に、不満をため込まないことも大切ですね。
悪かった方は、すぐに謝る。
言いたいことを言わずに我慢し続けると、どこかで爆発してしまいますから。
佐藤さん:
それから、年に一度は、
「来年も二人で続けるか」
を話し合っていました。
どちらか一人が我慢して続けるものではありません。
二人とも続けたいと思っているのかを、毎年確認していたんです。
記者M:
友人だから大丈夫と、関係に甘えなかったんですね。
高崎さん:
そうかもしれません。
友人だから言わなくても分かる、ではなく、仕事のことも生活のことも、きちんと話すようにしていました。
佐藤さん:
それと、お金を貯めるために何もかも我慢するのも、私たちには合わないと思っていました。

二人で楽しめる時間を、きちんとつくること。
何のために挑戦しているのか、分からなくならないようにすることも大切です。
友人同士だから、うまくいったのではありません。
お金や所有物のルールを決め、
互いを対等な責任者として認める。
不満をためず、毎年、続ける意思を確かめる。
そして、二人で楽しむ時間を失わない。
親しい関係に甘えるのではなく、
長く続けるための仕組みをつくってきたからこそ、
お二人は友人から仕事のパートナーへと変わり、
今も一緒に夢の店を営んでいるのです。
夢を先延ばしにした9年間ではない
記者M:
最後に、Super Dream Projectへの応募を検討している方へ、メッセージをお願いします。
高崎さん:
興味があるなら、あまり長く迷わずに挑戦してほしいです。
やってみなければ、自分に向いているかどうかも、パートナーと一緒に仕事ができるかどうかも分かりません。
体力のことを考えても、始めるなら早い方がいいと思います。
佐藤さん:
私たちは、将来の開業に向けて、
「吸収できることは、すべて吸収しよう」
と考えていました。
資金を貯めることも大切ですが、経営者としての経験を得られたことが、今の店の土台になっています。

スーパーホテルで過ごした約9年間は、
夢を先延ばしにした時間ではありません。
二人の店をつくるために必要な力を、
一つずつ身につけた時間でした。
「いつか、二人で店をやりたい」
高校時代からの友人同士が語り合った夢は、
約9年間のホテル運営を経て、
北海道千歳市の小さな居酒屋になりました。
夢を叶えるために必要だったのは、
最短距離を走ることではありません。
資金を貯める。
数字を学ぶ。
人を雇う。
設備を直す。
地域を知る。
お客様の反応を見て、やり方を変える。
そして、予想外の出来事が起きても、計画を立て直す。
一見、飲食店とは遠く見える経験の一つひとつが、
『居酒屋ナキウサギ』の土台になっています。
方向性の違いにより、解散する人たちがいる。
一方で、進む速さや計画が変わっても、
向かう方向を何度も確認しながら、
一緒に歩き続ける人たちもいます。
友人同士で夢を叶え、
その夢を続けていく秘訣。
それは、仲の良さだけに頼ることではありません。
互いを一人の経営者として尊重し、
変化のたびに話し合い、
何のために挑戦しているのかを見失わないこと。
お二人の約9年間は、
予想外の出来事に負けず、夢を現実に変えるための
長くて濃密な準備期間だったのです。

